内定者フォロー:必要な情報を提供する動機づける/内定フォロー

監修:曽和利光(組織人事コンサルタント)

概要

フォローする対象の「やる気の源泉(モチベーションリソース)」「キャリア志向」「自社に対するフックとネック」「強く影響を受けている人」をヒアリングしておくことで、提供すべき適切な情報が何かを知ることができる。その情報を、適切なタイミングで提供できれば、自然に入社意思が高まってくることになる。

 

以下の項目について、それぞれヒアリングをしておくことで、フォローする上で「提供すべき適切な情報がなんであるか」を知ることができます。信頼関係ができ、フラットな立場から適切な情報を提供することができれば、自社にフィットしている候補者のはずですから、自然に入社意思が高まってくるはずです。

 

1.やる気の源泉(モチベーションリソース)
仕事は厳しいものです。どんなに楽しい仕事であっても、目標を達成するまでの道のりには、いくつも障壁があるもので、ときに、くじけてしまうこともあります。そんな日々の仕事で、候補者のやる気の源泉となるもの、エネルギー源が何かを押さえておく必要があります。その人がやる気になるような何かを、自社がどんな形で提供できるかを、現場に伝えなくてはなりません。

やる気の源泉(モチベーションリソース)にはさまざまな分類がありますが、よく使われるものに「組織型」「仕事型」「職場型」「生活型」という4分類があります。

組織型とは、所属する組織自体の社会的地位や知名度、組織内での自分の地位、組織自体の成長などからやる気をもらうタイプです。こういう人には、自社の社会的認知を示すようなパブリシティ(新聞や雑誌、WEBの記事や書籍など)や何らかの表彰(「働きがいのある会社ランキング」など)を示したり、社内が「実力主義で若くして出世できる」というような事実を示したりすることで、関心を持ってもらえるかもしれません。

仕事型とは、日々の仕事自体の面白さや、自分がその仕事で能力を発揮できそうかどうかによって、やる気が左右されるタイプです。こういう人には、仕事で実際に使われている企画書を見せたり、インターンシップなどで仕事を疑似体験してみてもらうことでフォローします。

職場型とは、職場の雰囲気や仲間との相性などによって、最もやる気が左右されるタイプです。こういう人には、その人に合いそうな社員にたくさん会ってもらうことが効果的です。会社の行事・イベントや飲み会に呼ぶことも、効果があるかもしれません。

生活型とは、その会社に入って仕事をすることで、自分の生活がどのようによくなっていくかが、やる気を左右するタイプです。報酬水準のレベルやワークライフバランス(余暇の多さや福利厚生など)で、PRできるところがあれば伝えてフォローします。

2.キャリア志向
「キャリア志向」とは、社会人としての今後のキャリアにおいて、どんなことを大事にしていきたいかという志向を指します。1の「やる気の源泉」が短期的なエネルギー源だとすれば、「本人のキャリア志向が、自分の置かれた環境とフィットしているかどうか」は長期間にわたるエネルギー源といえます。学生本人が、ふとした節目に振り返ったときに、「自分のキャリアはこれでよい」と心底からいえるかどうかで、その後のキャリアが決まります。もし、フィット感を感じないのであれば、退職や転職につながることもあります。

キャリア志向にはさまざまな分類がありますが、ここでは、シャインというアメリカの組織心理学者が提唱した「キャリアアンカー(キャリアにおける錨=大事にしている不動の価値観、考え方)」という分類を引用しておきます。


モチベーションリソースと同様、候補者のキャリアアンカーが上記8種類のパターンのうちのどれに当てはまるかを見極めて、「フィットするようなキャリアを、自社で歩める可能性があるか」「あるとすれば、具体的にはどのようなもので、体現している人がいるか」などを検討してフォローしていきます。

3.自社に対するフックとネック
フックとは、「候補者が自社を選んでくれる理由」のことです。何万とある会社の中から、自社を選ぼうとしてくれているのは大変ありがたいことです。であるがゆえに、相手に「御社が第1志望ですので、入社します!」といわれると、「そうかそうか」とあまり深掘りせずに受け入れてしまうようなこともありがちです。「入社する」といってくれている人に、「なぜ?」と聞き返すのは、水を差す感じもありますが、きちんとその理由(フック)を聞いておかないと、後の内定辞退につながることもあります。

ひとつは、フック自体が誤解である可能性があるからです。誤解をし、自社が持っていないものに魅力を感じて入社を決意したとすれば、事実が判明したときに辞退されることでしょう。もし、事前に分かっていれば、誤解を解いた上で、違うフックで再度、入社を決意してもらうこともできます。

もうひとつ、フックをきちんと聞いておくことで、候補者から「言質」を取ることができます。他人の言葉ではなく、本人が自分の言葉で述べた「入社の決意」は大変重要です。当然ですが、人は、自分がいったことについては、きちんと守ろうとする傾向があります。他人に引っ張られて決意したのではなく、「自分で決めた」という思いは、その決意自体を大事にしようとする方向に働きます。これは入社時だけでなく、入社後の彼/彼女が仕事で壁にぶつかったときなどに、強い“支え”となる財産です。

一方、ネックとは、「自社についてネガティブに感じているポイント」のことを指します。フックは、基本的にはポジティブなことなので、聞くことは容易です。ネックはネガティブなことなので、社員である目の前の採用担当者に向かって話すのは、難しいことが多いのです。話しやすい雰囲気をつくらなくては、候補者が感じているネックを引き出すことはできません。ネックを引き出せなければ、「彼/彼女は何故、辞退してしまったのだろう」と、理由が分からないうちに去られてしまうことにもなりかねません。

ネックを引き出すことができたら、それを解消しなければなりません。その際の注意事項としては、「即座に頭から否定しない」ということです。「火の無いところに煙は立たない」で、自社側に、そういう誤解をさせてしまう何らかの理由があるということです。相手のその疑念を、「確かにそう思えるよね、不安だよね」と肯定することが重要です。「自分もそう思っていた」などと、言うことも必要かもしれません。その上で、具体的な事実をもとに、ゆっくり、ひとつひとつ疑念を晴らしていってください。

場合によっては、そのネックは動かしがたい事実であることもあるでしょう。当然ながら嘘はつけませんし、肯定するしかありません。同時に、そのネックを解消する動きが将来的にあり得るのであれば、そのことを「目標」「夢」として語りましょう。

新卒採用は、お互いの未来を見つめ合って、フィット感を確かめ合う採用です。今の時点でダメなところがあっても、お互いの可能性を信じて契るのが新卒採用です。会社の将来にコミットしている採用担当者であれば、「そのダメなところは、自分も会社も認識している。決して是としているわけではない。一緒に変えていかないか」くらいのことをいえるはずです。採用担当者は、自社の将来を信じられるぐらい、「自社を知る」努力をするべきです。

4.強く影響を受けている人
人が職業を選ぶというのは、その人個人の問題ではないことが多く、その人を取り囲む人々から、強い関心を持たれている場合が多いでしょう。ほとんどの場合、入社を決める前に、候補者は、自分が強く影響を受けている人(親、親類、恩師、友人、恋人など)に相談します。その影響を受けている人の志向に、「どの会社に就職するか」という意思決定もまた、影響を受けます。

「影響を受けている人が誰か」を知るには、率直に、「就職について、どんな人に相談している?」と聞いてみたらよいでしょう。その上で、「その人はどんなアドバイスをしているか」「自社・他社についてはなんといっているか」を聞いて、「影響力を持つ人物」の志向を知っておくことが重要です。

例えば、本人のモチベーションリソースが「仕事型」であるとしても、「影響ある人物」が「組織型」である場合、自社の掲載されているパブリシティのクリッピングや書籍などの資料を渡しておくことが重要です。そうすれば、間接的に「影響ある人物」をフォローすることができ、本人の意思決定を阻害されずにすむかもしれません。

このように、目の前の候補者本人だけではなく、周囲の重要人物の志向についても、知ることができれば知っておき、間接的な情報提供をすることで、内定受諾の確率を高めることができるのです。

最後に、入社意思が高まってきた際に重要なのは、その人の「意思決定スタイル」です。学校の選び方、住まいの選び方、買い物の仕方などをちゃんと聞いておくことで、その人の「意思決定の仕方」はある程度見えてきます。

意思決定スタイルは、「決める際に、情報をたくさん集めるのか、少しでよいのか」と、「スパッと決断し初志貫徹するのか、いくつかの選択肢を並べ長考し逡巡するのか」というふたつの観点から見極めます。前者は、「与えるべき情報量」の判断につながり、後者は「内定受諾のタイミング」につながります。候補者のスタイルによって、柔軟な対応が求められます。

新卒採用は、「採用競合が大変多い」特徴を持つ労働市場です。望ましい人材を採用するためには、「発見する」努力だけではなく、今回解説したような「動機づける」努力が不可欠です。もし、この努力をしていないのであれば、それは「自社のファン」だけを採用しているということも意味します。

もちろん、「効果的な採用と考えると、その方がよいので問題ない」という判断もあるでしょう。しかし、採用する人材は、その後の自社の成長角度を決めます。さらに、「今の採用ブランドに寄りかかる」採用をしているようでは、採用担当者としての介在価値は少ないといわざるをえません。

採用担当という稀有なポジションを得たからには、相応の責任があります。このような心意気を持って、自社を、ひいては社会をよくしていくリーダーとして、成長していっていただきたいと思います。

 

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