曽和 利光(そわ・としみつ)
2019/04/22
イントロダクション
こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。世は採用活動解禁で、採用担当者の皆様はいよいよ忙しくなっておられることと思います。しかし、実感されていると思いますが、「採用難時代」で売り手市場は相変わらず。昨年よりまたさらに、プレエントリーや説明会参加者の人数が減っている企業も多いようです。
そこで今回は効果的な追加施策の一つである「地方学生へのアプローチ」について考えてみたいと思います。地方学生市場はそのポテンシャルほどには、多くの企業が採用ターゲットにしていないために、実は最も大きなブルーオーシャン市場とも言えます。皆様の会社の本社や事業所のある場所によって「地方」と言ってもどこを指すのかは変わってきますが、本稿では地方採用を考える流れを、皆様と追ってみることができればと思います。
関西は大きなポテンシャルを持つ人材市場
まず、そもそも地方の大学生とはどれくらいポテンシャルのある採用市場なのかについて、いろいろな地域における学生数などの数字を見てみましょう(大学院進学者は数年後に院卒者になり、結局、採用活動対象となる数字に組み込まれると推定して、とりあえず大学生の人数をベースにしています)。
総務省の統計(「日本の統計 2017」)によると、首都圏(東京・千葉・埼玉・神奈川)の学生は1学年あたり約30万人です。京阪神地区(大阪・京都・兵庫)で約13万人、これに他の近畿各県(滋賀・奈良・和歌山)を加えると約15万人です。これだけ見ても、首都圏の半分近くの新卒学生市場が関西地区にあることがわかります。しかも、リクルートキャリアの2019年卒『大学生の地域間移動に関するレポート2019』によれば、京阪神地区の地域外就職の比率は39.7%とほぼ4割にもなります。
単純計算をすれば、首都圏企業にとっての京阪神地区は、「学生数が首都圏の5割」で「その4割が地域外就職」ですから、首都圏にかけるマンパワーの2割ぐらいを割いてもよい市場ということになります。首都圏も1割強は地域外就職をしますので、もう少しパワーをかけてよいかもしれません。
さらに言えば、これは首都圏の会社が「今の程度の京阪神地区への採用活動のパワーのかけかた」でこのレベルなのですから、もっとパワーをかけるともう少し市場としては大きなものとみなしてよいかもしれません。戦略的に動くのであれば、むしろ、京阪神地区にこそより比重を置いて、関西採用に首都圏の半分ぐらいのパワーを割くというようなことも考えられます。
その他の地域はどうなっているか
ちなみにその他の地区を同様に単純計算(あくまでざっくりとした単純計算です)していくとどうなるかを見てみます。
首都圏の学生人数を先述の通り約30万人と置いた場合(これはすべて民間就職学生ではありませんが、すべての地域でも同様なので、学生人数の総数同士を便宜的に比較してみます)、各地域の地域外就職想定人数(=在籍人数×地域外就職比率)で首都圏と比べてどれくらいになるかを計算し、結果の高い順に並べると以下のようになります。
●中国(鳥取、島根、岡山、広島、山口)
学生数が約3.5万人、地域外就職比率が約6割で、首都圏の7%程度の市場
●東海地区(愛知県・三重・岐阜・静岡)
学生数が約6万人、地域外就職比率が約3割で首都圏の6%程度の市場
●九州(福岡・佐賀・長崎・大分・熊本・宮崎・鹿児島)
学生数が約5.5万人、地域外就職比率が約3割で、首都圏の約6%の市場
●北関東(茨城・栃木・群馬)
学生数が約2万人、地域外就職比率が約6割で、首都圏の4%程度の市場
●北陸・甲信越地区(新潟・富山・石川・福井・山梨・長野)
学生数が約3万人、地域外就職比率は約4割で、首都圏の4%程度の市場
●東北(青森・岩手・秋田・宮城・山形・福島)
学生数が約3万人、地域外就職比率が約4割で、首都圏の4%程度の市場
●北海道
学生数が約2万人、地域外就職比率が約3割で、首都圏の2%程度の市場
●四国(香川・愛媛・徳島・高知)
学生数が約1.3万人、地域外就職比率が約4割で、首都圏の2%程度の市場
もちろん、実際にどの地域の学生にアプローチするのかを決めるには、このような単純な人数計算だけではなく、その地域からどこの地域に流れる人が多いのか等を見ないと正確な情報ではありません。
ただ、規模だけで見れば、実は中国や九州は、東海地区に匹敵するほどのポテンシャルを持った市場である可能性があることがわかります。特に、もし皆様の会社の所在地が関西にあるのであれば、中国・九州はアプローチしてみる価値ある対象かもしれません。
ターゲットを定めたら
取り組むべきこと
さて、特定の地方を新たに採用ターゲットとしたら、その後どのようなことをすべきかについて述べます。
1)ネット上での会社説明力強化
自社と遠く離れた所の地方学生を集めるためには、距離のハンデを無くすように、ネット上での会社説明ができるような工夫をしなければなりません。例えば、採用ホームページを充実させたり、リアル場での会社説明会だけでなく、動画をネット上で見ることができるようにしたりすることは必須です。
サイバーエージェント社は年間100回程度実施していたリアルの説明会を廃止してすべてを「サイブラリー」と呼ばれる動画説明会に変えることで地方学生を集客し、最終的には内定者に占める首都圏以外の学生の割合は約4割に増えたとのことです。
2)スカウトメールによる候補者集団形成の強化
地方採用の難しさの一つは「偏在」していることです。例えば、前頁で計算した地方学生(関西圏を除く)で地元に就職しない人をすべて足すと、首都圏の35%程度となり、かなりのポテンシャルを擁していることがわかりますが、問題はそれが日本全国に散らばっているということです。しかし、今はネット時代。リアルに行脚して人を探し歩くとなるととてつもない労力がかかりますが、リクナビスカウトなど、スカウトメールなどに注力して特定地域の学生にアプローチすることが容易になっています。地方採用学生のターゲティングに連動して、スカウトメールでのアプローチを強化してみてもよいかもしれません。
3)オンライン面接
また、選考においても、特にまだ候補者の志望度が高まっていない初期においては、できる限り負荷のかからない選考方法を取り入れなくてはいけません。いくつか方法がありますが、最も学生側も企業側も負担が少ないのは、リモート会議アプリなどを用いたオンライン面接です。オンライン面接には、リアルタイムでTV電話のように行うものと、企業側からの質問も学生側からの回答も録画で行うものとがあります。前者は空間の制約を超えますが、後者は時間も空間の制約も超えますので、今後様々な企業で導入が検討されています。
4)出張面接
もし、オンライン面接がなんらかの理由で(私にはあまり思いつきませんが)難しければ、採用担当者がターゲットの地域に出張して面接を行う方法もあります。しかし、日程が限られてしまうのでスケジュールに合わない学生を逃してしまうことと、企業側のマンパワーが多大になることがデメリットです。
5)交通費負担
また、それも難しければ、地方学生に遠距離を移動して来社してもらうということもありますが、その際にはできる限り初回面接から(最初の方は志望度が低いので)交通費を支給して、学生の負荷を減らすことが重要です。人材サービス会社の某社は地方学生が面接で来社する際には交通費を全額支給しホテルなども手配しており、その結果、新卒採用の4割が地方学生という状況を実現しています。学生の就職活動にかける費用は平均でも十数万円もしており、地方学生はさらに高額の活動費が必要になっています。そのため、交通費を支給することはインセンティブになります。
6)地方学生の内定者フォロー
最後に、内定を出した後も、遠距離の学生であればあるほど、こまめに内定者フォローを行うことが重要です。1~2週に1回は電話するとか、たまには出張がてらリアルに面会をするとか、近くの地域の内定者を集めて小規模な懇親会を行っておくとか、本社で何かイベントがあるときは必ず交通費や宿泊費を負担してでも参加してもらうとか、都市圏の内定者以上のケアが必要です。接点が少なくなると、地方学生の内定者は不安にもなりますし、ひいては内定辞退にもつながりかねません。
以上、今回は最後の人材の宝庫とも言える地方学生についていろいろ考えてみました。繰り返しますが、本稿でのシミュレーションは単純計算ですので、実際には様々な地域特性(ここの県は、だいたいここの地域に就職する、等)を調査してからターゲティングをしていただければと思います。ただ、申し上げたいのは、ご覧いただいたように、地方学生市場は、結構ポテンシャルのある市場だということです。自社の本社所在地のマーケットでの採用活動が限界に来たと感じられたのでしたら、一度チャレンジしてみることをお勧めします。
- 曽和 利光(そわ・としみつ)
- 1995年(株)リクルートに新卒入社
、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、2011年10月、(株)人材研究所を設立。現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。
「採用活動の教科書・応用編」
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