2015/04/28

2015年卒就職・採用の振り返りと2016年卒採用の展望

岡崎 仁美(おかざき・ひとみ)
1993年(株)リクルートに新卒入社。以来一貫して人材関連事業に携わる。
当初7年間は大阪にて人材採用・育成の営業に従事、中堅・中小企業を中心に延べ約2000社を担当。2000年に首都圏に異動し、転職情報誌『B-ing関東版』の編集企画マネージャー、同誌副編集長、転職サイト『リクナビNEXT』の編集長を経て、2007年4月に、『リクナビ』編集長に就任。以後、大学などでの講演も数多く行う。プライベートでは3児の母でもある。

イントロダクション


こんにちは。就職みらい研究所所長の岡崎仁美です。

新年度を迎え、採用担当者の多くは、前年度の採用活動を通じて迎え入れた新入社員の配属を見届けつつ、2016年卒学生の採用活動に注力しておられることと思います。

折からの景況感上昇、それに伴う採用意欲の高まりと、採用活動開始時期の大幅繰下げとが相まって、「今年はちゃんと採れるだろうか」 と不安を覚えている方も少なくないと思います。

そこで本コラムでは、2015年卒採用の振り返りと、それを踏まえた次年度の展望について述べていきたいと思います。
なお、本コラムで用いる調査の概要は以下の通りです。


■調査概要



2015年卒の就職・採用戦線は、「学高産低」!?


2015年卒の就職・採用戦線を語るうえでまず着目したいのは、需給バランスの大きな変化です。
リーマン・ショック後数年続いた“低迷期”を脱し、大卒求人倍率は2006年卒水準の1.61倍に上昇しました。
また、この求人倍率の従業員規模間・業種間格差がさらに拡大し、採りにくい企業が一層採りにくい環境となりました。

実際の採用充足状況をみても、こうした規模間・業種間格差は顕著です。
就職みらい研究所が昨年12月に実施した 『就職白書2015』 における企業の回答をみると、2015年卒の採用数を充足した企業は全体で55.8%であり、この充足率は、企業規模が小さいほど低くなっています。

業種別では建設業が45.3%、サービス・情報業が48.2%と半数を切る一方で、製造業は64.0%と、20ポイント近くの開きがみられます。 採用未充足企業の内訳に着目しても、300人未満企業、建設業、サービス・情報業でいずれも 「計画よりかなり少ない」 と回答した企業が10%を超えており、他の規模、業種よりも顕著に高くなっています。


■図表1:  2015年卒の採用数の計画に対する充足状況  [12月時点]  (全体/単一回答)
※クリックすると拡大します


他方、学生の進路確定状況をみてみます。
同じく 『就職白書2015』 をみると、民間企業を対象に就職活動を行った学生のうち、2014年12月時点で 「民間企業に就職する」 ことが確定していたのは77.1%で、前年よりも4.9ポイント増加しています。
「民間企業以外に就職する」 を合わせた 「就職・計」 は84.5%と、前年プラス6.6ポイント上昇しました。

また、就職先が確定している学生の入社予定企業への満足度は、「非常に満足」 「どちらかというと満足」 の 「満足・計」 が79.9%ときわめて高く、「どちらかというと不満」 「非常に不満」 の「不満・計」 は5.5%で、「満足・計」 のほうが圧倒的に高いという結果となりました。

このように、2015年卒の就職・採用戦線を全体でとらえた場合、5年続いた均衡状態が崩れ、学生が好転・企業が悪化の 「学高産低」 ともいうべき変化が起きました。


■図表2:  民間企業を対象に就職活動を行った学生の進路の確定状況  [12月時点]  (学生全体/単一回答)

■図表3:  就職先が確定している学生の入社予定企業への満足度  (就職先確定者/単一回答)


企業は“直接接触”にパワーシフト

こうした需給バランスの変化は、企業の採用プロセスに大きな影響を及ぼしました。

まず目を引くのが、企業の学生との初期接触形態の変化です。

『就職白書』 では、企業に採用プロセスごとの実施状況を尋ねています。
それによると、「プレエントリー(採用情報・資料の請求)受け付け」 を行ったとする企業は78.5%と、高水準ではあるものの、前年よりもマイナス17.6ポイントと大幅な減少がみられました。

一方で 「説明会・セミナー」 が98.7%、「適性検査・筆記試験」 が96.7%、面接が99.9%と、いずれも超高水準をキープしています。

その他の情報もかんがみると、2015年卒シーズンにおいては、採用競争激化を見越し、学生との初期接触(=母集団形成) を、Webによるプレエントリーから、説明会・セミナーへの直接呼び込みへと転換させた企業が一定数あったようです。

この 「プレエントリー実施率」 の減少幅は、企業規模が小さいほど大きく、「待っていては採れない」 と危機感を高めた中小企業を中心に、“直接接触”を重視する傾向が高まったものと思われます。


■図表4:  採用活動プロセス毎の実施率  (全体/それぞれ単一回答)
〈注〉 ( ) 内の数値は前回調査との差


また、この就職・採用環境の変化は、内定後の歩留まりにも変化をもたらしています。

『内定出し者数を100』 とした場合の 「内定辞退者数」 は全体で38.0、「内定者数」 は62.0でした。
つまり企業は内定を出した学生の4割近くに“辞退されている”ことがわかります。
この“辞退される”割合は、従業員規模が小さいほど高く、やはり中小企業がより苦戦しているといえます。

この 「内定辞退者数」 の違いは、規模以上に業種別で顕著です。
最も内定辞退者数が大きいのは流通業で43.3、次いでサービス・情報業で43.0となっています。
これらがいずれも昨年より悪化した一方、最も値の小さい製造業(29.4)は改善し、業種間の明暗がより鮮明になっています。


■図表5:  「内定出し者数を100」とした場合の内定辞退者数および内定者数の割合 (面接から内定まで全回答企業/実数回答)


2016年卒の展望  —採用意欲はさらに高まる

このように、学生・企業間の需給バランスが変化し、企業の採用難傾向が強まるなか、いよいよ2016年卒から、就職・採用活動開始時期の繰下げが実施されます。

各企業はこの“16年卒戦線”にどのようにのぞもうとしているのでしょうか。
各論に入る前にまずはマクロの採用環境について、押さえてみたいと思います。

大卒者の求人倍率は、毎年春に調査・発表されており、本稿を記している3月上旬時点では2016年卒の数字は明らかになっていません。

そこで 「ワークス大卒求人倍率」 の調査元であるワークス研究所が毎年秋に行っている 『採用見通し調査』 から、2016年卒者の新卒採用見通しをみてみましょう。

この調査は、2016年卒の採用予定数が2015年卒と比べて 「増える」 「減る」 あるいは 「変わらない」 のかを尋ねたものです。新卒採用を実施しない企業は「以前も今後も採用しない」を、調査時点で採用人数が見通せない企業は 「わからない」 を選択しています。

それによると、大学生・大学院生の採用予定数が前年に比べて 「増える」 が14.0%となり、「減る」 の5.3%を上回っています。「わからない」 の回答も全体の4分の1程度を占めるものの、2015年卒に引き続き、大学生・大学院生の新卒採用は増加する見込みと読み取れます。


■図表6:  2016年卒者および2015年卒者の新卒採用者見通し


従業員規模別では、企業規模が大きいほど 「増える—減る」 の値が大きい、つまり採用意欲が高いことがわかります。
業種別を大分類でみると、建設業で 「増える—減る」 の値が最も大きく、サービス・情報業、流通業と続いています。
さらに業種別を細かくみると、飲食サービス業(25.0%)や小売業(20.8%)などでは2割強の企業が 「増える」 と回答しています。

また、「増える—減る」 の値が大きいのは、コンピュータ・通信機器・OA機器関連、飲食サービス業、情報通信業などであり、人手不足が顕著とされる業種を中心に、新卒採用意欲も高いことがうかがえます。


■図表7:  従業員規模別 2016年卒者の新卒採用見通し  (大学生・大学院生)

■図表8:  業種別 2016年卒者の新卒採用見通し  (大学生・大学院生)
 〈注〉 業種内訳は、特徴的な業種の一部を抜粋  /  ※が付いているものは、回答社数が少ないため、参考データとして参照


スケジュール変更に危機感を覚えつつも、質へのこだわりも鮮明

前述のように、企業の採用意欲が前年以上に高まることが予測される2016年卒採用ですが、企業は採用スケジュール変更による影響をどのように見通しているのでしょうか。

『就職白書2015』 によると、「新卒採用活動の母集団」 「選考応募者数」 が 「減ると思う」 と予想している企業は6割を超えています。また 「内定辞退者数」 が 「増えると思う」 も6割近くに達しています。

このように採用プロセスでの苦戦が想像されるなか、「新卒採用活動期間」 が 「長くなると思う」 とする企業は約半数に上っています。

そして最終的に 「新卒採用できる人数」 については、「変わらないと思う」が半数強ではありますが、「減ると思う」 と予想している企業も4割強となり、プロセスだけでなく結果にもマイナス影響があると考えている企業が少なくないことがわかります。


■図表9:  2016年卒以降の採用スケジュール変更による見通し  (前年採用実績企業/それぞれ単一回答)
資料出所: 就職みらい研究所『就職白書2015』 (図表12まで同)
〈注〉  %を表示する際に小数点第2位で四捨五入しているため、%の合計数や差の数値と計算値が一致しない場合がある (図表12まで同)


その一方で、多くの企業は質を落としてまで採用しようとは考えていないようです。

2016年卒の採用基準の見通しは、「前年卒並み」 が73.8%と最も多く、「緩くなる」 は6.6%にとどまり、「厳しくなる」 の8.3%よりも小さい割合でした。

この傾向は採用難が顕著な中小企業でもみられており、300人未満では 「厳しくなる」 の値は11.9%とむしろいずれの企業規模よりも高くなっています。


■図表10:  2016年卒の採用基準の見通し  (前年採用実績企業/単一回答)


同じく、採用数が満たなかった場合の対応についても、ほぼ半数が 「採用数に満たなくても求める人材要件は下げない」 としており、「採用数を満たすために基準を見直し、柔軟に対応する」 の13.1%を大きく上回っています。


■図表11:  2016年卒の採用数が満たなかった場合の対応予定  (前年採用実績企業/単一回答)
※ カッコ内の数値は前回調査との差  / データは無回答サンプルを除いて集計  / 従業員規模不明・無回答企業があるため、規模別の計と全体は一致しない


競争激化とスケジュール変更の二重苦を、いかに乗り越えるか?

いうまでもなく、人材採用は自社の事業を前進させるためのものであり、採用担当者には、それに見合う人物をしっかり見極め確保することが求められます。

各企業の採用意欲が前年に増して高く、また活動開始時期の大幅な繰下げによる “圧縮スケジュール” という新たな条件が課せられる2016年卒採用において、自社での活躍が期待できる人材を獲得するうえで、注目してほしい情報があります。

『就職白書2015』 では、学生に 「企業を選ぶときにもっとも重視した条件」 について、就職活動を開始したころと、4年生12月時点のそれぞれを尋ね、その変化を分析しています。
それによりますと、就職活動を開始した頃の重視条件は 「業種」 「勤務地」 「職種」 がトップ3であり、企業や仕事のスペックに着目する傾向がみられます。

ところが4年生12月時点、同調査回答者の85%が就職先をすでに決定しているタイミングと比較すると、活動当初からの変化が確認できます。

最も大きく伸びたのは 「一緒に働きたいと思える人がいるかどうか」 という項目です。
実際、就職活動を進めるなかで、重視するポイントが徐々に変わり、最終的には 「人とのフィット感」 が決め手となったと振り返る学生は少なくないのです。


■図表12:  企業を選ぶときにもっとも重視した条件  (就職先決定者および就職活動継続中の学生/単一回答)


学生にこうした基準での決断を促すためには、採用担当と学生の単線ではなく、現場の若手や経営トップも巻き込んだ、複線的なアプローチを施すことがきわめて効果的です。

「現場の巻込み」 には賛否両論が巻き起こりやすく、その調整に頭を悩ませてきた方も少なくないですが、「深刻な人手不足事情」 に言及する報道が目立ついま、人事にとっては、経営者のパラダイム転換を促すチャンスが到来しているともいえます。

2016年卒からの採用活動スケジュールの変更を契機に、これまでの採用活動や雇用管理のあり方を見直し、激しい変化の下でも恒常的・安定的に人材を確保できる 「真の採用力」 を獲得する。
採用担当者ならではの、自社の競争力向上に向けた貢献を志していただきたいと思います。


<転載元記事>
産労総合研究所 『人事実務』 2015年4月号
特集記事 「2015年卒就職・採用の振り返りと2016年卒採用の展望」


ページトップへ