2014/08/19

「関係構築型」採用広報の基本知識―16年卒採用スケジュールの変更による採用広報の変化―

小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

イントロダクション


皆さん、こんにちは。採用・育成コンサルタントの小宮健実です。

今年は例年より採用広報の開始に向け時間があります。この機会に、自社の採用広報戦略についてしっかりと整備することにより、採用活動全体の質を向上させることが可能です。そこで今回は、今年注目していくべき採用広報の手法について話をしようと思います。

今回ご紹介するのは、「関係構築型」採用広報です。今年(今後という意味でも)、最も注力される採用広報だと思います。

「関係構築型」採用広報は、類似したプログラムは以前からありますが、その目的、つまり「関係構築」の追求を前面に押し出すプログラムです。コンテンツの面白さやゲーム性によって学生に楽しんでもらい、自社に良いイメージを持ってもらうことでエントリーを促す戦略とは、まったく異なるものです。

私は以前から、中小企業をはじめとした採用ブランドがまだ確立していない企業には特に「関係構築型」採用広報を薦めてきました。次ページ以降にその基本的な知識について述べていきますので、採用広報活動を自社で設計したり、採用活動支援企業のサービスを利用したりする際の参考にしていただければと思います。

「関係構築型」採用広報の狙い

まず「関係構築型」採用広報とは何か、その説明をしていきましょう。
「関係構築型」採用広報が目指すのは、活動実施後に、以下のような状態が、自社と学生の間に出来上がっていることです。

  • ・採用担当者が参加者一人ひとりをよく覚えている。できれば顔と名前が一致している状態。
  • ・参加者が自分(採用担当者)について十分な親近感・信頼感を持っている状態。
  • ・参加者が次のイベントの連絡を待っている状態。
     (次のコンタクトがどんな内容でいつ頃なのか、うっすらと知っている。)
  • ・参加者とメールなどで直接コンタクトがとれる状態。

これらのことを実現するには、せいぜい一回の実施にあたり、参加者は30〜50人が限度だと思います。
つまり、多く人数を集め情報を広く浅く浸透させる施策ではなく、少数の参加者と顔を向け合い、確実に関係構築をしていくスタイルになります。

また、通常の採用広報では、こちらのこと(業界・企業・仕事)をいろいろ知ってもらうことが目的となりますが、関係構築型の採用広報では相手のことを知ることも必要になります。「知る」とは、参加者が望ましい人材かどうか評価するということではなく、その学生のパーソナリティーや考え方、学校生活やそれ以外の日常、例えば趣味などを含め、よく知ることを意味します。

そして最も大事な特徴(設計上の観点)は、通常型の採用広報と比べ、目的達成の時系列が逆になることです。少しわかりづらいと思うので、下の図を見てください。


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通常型の採用広報では、考え方として、大きい括りから小さい対象へという流れがあります。 例えば、業界理解 → ビジネスモデル理解 → 企業理解 → 職種理解、それで興味があれば実際に社員に会って話を聞いてみる、といったような流れです。

これが、関係構築型の採用広報では、逆順になります。小さい対象から大きい括り、言い換えると個別具体的な理解から抽象的で大きな意味の理解、といった順番で理解してもらう設計です。

まず先に参加者と社員との関係構築があります。関係構築とは、相互コミュニケーション(社員の話を参加者に聞いてもらったり、参加者の話を社員に聞いてもらったりすること)により、信頼感や親近感を醸成することです。

そして、私が親近感・信頼感を持っている○○さんが、普段どのような仕事をしているのか、やりがいや大切にしている思いについて直接聞き、その働く仲間や環境(つまり企業の説明)を聞き、これからどのような夢を持っているかといった話から、企業や業界の可能性を感じるといった流れです。

このように人から入ってしまう流れは、すなわち学生が自社の業界や自社についてよく知らない状態でも接触を開始する(知らないからといって排除しない)ことを意味します。仲の良かったゼミの先輩が丸の内で働いているので一度話を聞いてみようと思い、とりあえず会ってみたところとても親身にされ、そのまま縁あってその企業に就職、といった流れに似ているかもしれません。

もちろん、全く知らない企業の採用広報プログラムには学生は応募してくれないでしょうから、促すための施策は必要です。しかしながら考え方としては、企業の採用ブランドを高め、そこから勝負する戦略ではありません。

このようなコンセプトを念頭に、具体的なプログラムを企画したり、採用支援企業に企画を求めたりすることで、「関係構築型」採用広報の実施目的を叶える可能性を高めることができるでしょう。

 

ターゲット学生の「特徴づけ」

「関係構築型」採用広報のデメリットを考えた場合、リーチできる学生の少なさが挙げられます。

それ故に、誰でも希望すれば参加できるというイベントとは一線を画して、「なるべくこちらのイメージに近い」学生に参加してもらうための作戦を練る必要があります。

そもそも論ではありますが、採用広報活動において、自社が学生が誰でも知るような企業ではなく横綱相撲がとれないならば、新卒採用の全マーケット、すなわち就活生全員を対象にする施策をとるべきではありません。

もう少し譲って、多くの企業が行っている、ターゲットをセグメントするという設定レベルでも、高い確率で良い結果を生むには足りないと思っています。ここでターゲットをセグメントするといっているのは、体育会系とか、工学系の院生など、属性でターゲットを表現することです。

これはマーケティングの基本でもあります。適切なサイズを超えたマーケットで勝負することは、非効果的で、個別のターゲットへのリーチを弱めることにもつながります。本来焦点を当てるべきなのは、体育会系といった属性マーケットではなく、人材そのものだからです。

それはイコール「求める人材像」でもあります。
「求める人材像」が、採用広報で使用する質に届いていない場合もありますが、とにかく採用広報フェーズで使用するには、属性レベルを上回る、もっと明確な手がかり、つまり現実の人間を感じさせるイメージを作ることが必要になります。この作業をターゲット学生の「特徴づけ」と呼びます。

「特徴づけ」は、(自社に入ってくるような)学生をよく知らなければできません。
何に興味があり、どんな生活スタイルで、どのような勉強をしており、何かについてどのくらいの知識があり、どのような興味志向で、どんな活動をしているか、現実の学生のイメージを持つことが必要です。 もちろんそれはひとつである必要はなく、いくつもあって構いません(もちろんその中に体育会系といった表現があっても構いません)。

そしてターゲット学生のイメージ、つまり、「なるべくこちらのイメージに近い学生」が採用担当者を始め、採用チームメンバーの頭の中にしっかりと定着すれば、あとはそのターゲット学生のニーズに応える形で、採用広報のプランを作成していくことになります。

採用広報では、しばしばマーケティングの知識が役立ちますが、それはここでも同様です。ターゲット・カスタマーの考え方や、規模は小さくても自社が確立できるチャネルで実績を上げ、評判と安定性を得たらそれを他のチャネルに広げていくことが得策だという主旨のことは、それらから学ぶことができます。


さて、今回は「関係構築型」採用広報について書いてきました。

採用広報は、先に十分な戦略設計を行ってから、それを実現する具体的な企画について検討すべきですが、実際には具体的な企画を先に求め、その選択肢の中から良さそうなものを選ぶスタイルが定着しているように感じます。インターンシップなどは、特にその傾向が強いように感じます。

具体的な企画から入ると、わかりやすいなどメリットもありますが、どうしても面白さなど表層的な部分に目が行きがちです。その結果、本来大切な戦略設計が後追いになり、狙い通りになっていないことが多いように思います。

今年は採用活動の変化の年です。採用広報の戦略設計について例年以上に時間をとり、質を向上させることが可能だと思います。

私も少しでもその力になれればと思っています。

では

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