2012/12/11

「無駄になった採用広報」―「採用広報の設計」の基本について―

小宮 健実(こみや・たけみ)
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手掛けている。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

イントロダクション


皆さん、はじめまして。今回コラムを担当することになりました、採用と育成研究社の小宮健実です。

私は依然務めていた企業において2000年から2005年までの間、新卒採用のリーダーとして仕事をしていました。幸運なことに、その企業には米国の進んだナレッジを学べる環境がありました。そして、それを実行しているうちに、「採用活動の正しさ」に興味を持ちました。それが、現在私が代表を務めている、採用と育成研究社の源流になっています。

やがて、「日本で採用活動を設計するには米国流のナレッジは進んでいても何かが足りない」と感じるようになり、2005年にIBMを離れ、首都大学東京でチーフ学修カウンセラーの仕事に就きました。企業サイドから、学生・学校サイドへの転換です。

大学は折しも、就職支援からキャリア形成支援へと変革を遂げているさなかでした。大学に籍を置くというメリットを最大限生かし、多方面の情報に触れさせていただきました。

首都大学東京に3年ほど勤めた後、株式会社採用と育成研究社(RDI)を2008年に立ち上げました。企業サイド、学生サイド、どちらもやりがいを感じましたが、自分が得た経験は、これらを俯瞰的に見て、総合的な正しさを提示することで最も生かされると考えたからです。RDI設立以降、「採用活動に科学を」という観点で、企業や大学の支援をさせていただいています。

当コラムでは、そうした私の今までの活動の中から、興味深いエピソードを、実話を基に取り上げて紹介したいと思います。
そこから皆さんが、採用活動を正しく設計するためのヒントを得ていただければ幸いです。

今は、まさしく採用広報が真っ盛りです。もう今年度のプランニングは終わっていると思いますが、それでも、今からでもぜひ確認した方がいいこともあります。場合によっては、無駄なお金やワークロードを発生させなくて済むかもしれません。

今回は、採用広報に潜んでいる「落とし穴」の話です。

採用広報が無駄だった!

— どうして採用広報を行っているのですか?

「それは、まず認知をしてもらう必要があるからです。うちの会社は、学生さんが普段の生活で接することなんて無いですから。まず知ってもらって興味を持ってもらわなくては、採用なんてできないですから」

—なるほど。認知をしてもらうためですね。では、実際、認知にどのくらい効果を感じていますか?

「去年比較でいうと、母集団はほぼ同じボリュームですけど、セミナーの満足度は去年よりかなり高いんです。今日もセミナーをしましたが、手ごたえは去年よりありますよ!」

—それはよかったです。順調ですね。内定者も順調に迎えられそうですね。

「そうは簡単にいかないですよ。去年の歩留まりを考えたら、もっと母集団を増やさないと心配です。それにいい人がいても、たいてい他社も内定を出していますから」

—なるほど。採用広報は一筋縄ではいきませんね。そうだ、簡単な調査をしてみませんか? 採用広報がどのくらい採用活動の役に立っているのか、内定者にアンケートをとってみましょう。

……さて、調査の結果は、 なんとも驚くべきものでした。


●A社 採用広報調査結果(抜粋)

(1)内定者は何によってA社を知ったか

(2)内定者の採用広報施策への参加実績


(1)の結果からわかったこと、それは、一生懸命認知してもらう努力をしたのだけれども、実際には「内定者の7、8割が、自分で情報検索をしている過程で、自力でこの会社を発見していたり、友人から聞いたりして知った」のだということでした。

また、(2)からわかったことは、あれだけせわしなく、いろいろなイベントを実施したにもかかわらず、それが、「内定者の増加にはつながっていない、約9割の内定者は採用広報のイベントに出席していなかった」ということでした。

もちろん、(2)に挙げたそれぞれの施策には、それ相応の参加者がいて、アンケートなどは個別に実施しています。ばらつきはありますが、総じて参加者の満足度も高く、有意義な施策を打っていたという自負もありました。

でも、これではまるで、採用広報をしてもしなくても、あまり結果には影響がなかったように見えてしまいます。

「何かを変えなければ、いけなさそうですね」
— はい。そう思います。

ではお聞きします。あなたの会社にとって、これは他人事ですか? それぞれの施策から、ちゃんと内定に結びついている、という企業ももちろんあると思います。それが、意図した設計通りの結果であるならば、まったく問題はありません。

でもちょっと自信がないならば、次の章へ進んでください。A社の採用広報を変えるために必要な、「採用広報の設計」の基本について、お話しします。


点と点をつなぐ

まず先に書いておきますが、A社の採用担当の方は、本当に一生懸命、仕事をされていました。いつも採用活動の質を熱心に追求し、学生からも高い評判を得ていました。セミナーなどの満足度も、きちんと毎回アンケートを行って、改善に努めていました。

ただ、A社の採用広報は、結果的に内定には、ほとんどまったくといっていいほど影響していませんでした。なぜでしょうか。私は、その原因は、採用広報の目的を <認知してもらうこと> といい切ってしまっていたことだと思います。

採用広報の目的は、認知だけではありません。採用広報は、最終的に「求める人材を採用する」ことにつながらなくてはいけないのです。「広報」と「採用広報」の明確な違いは、そこにあります。そんなことはわかっている、という声も聞こえてきますが、私が見ている限り、そのように意図して設計されているケースは多くありません。

では、あらためて、「採用広報の設計」の基本を説明しましょう。それにはまず、「イベント」「パス」「チャネル」の3つを理解することから始めてください。


イベント(接点)

イベントとは、学生と自社の接点のことです。採用広報の設計でいう「イベント」とは、催し物のイベントのことだけではありません。DMもウェブサイトも、パンフレットも、セミナーも、学生と自社の接点は、すべてイベントという概念でとらえます。

採用担当者が採用広報で最も力を入れているのが、ひとつひとつの施策、つまりイベントの内容です。イベントの質が高ければ、自社に強い興味を持ってもらうことができます。しかし、イベントは、時間軸で見ると、点に過ぎないことも知っておかなければいけません。

パス(つながり)

採用広報の強さとは、点の強さもさりながら、点と点との「つながり」の強さで決定されます。

ひとつのイベントで認知を高めることに成功し、学生から高い満足度を獲得しても、そのインパクトは時間と共に弱まります。そして、他社ともたくさんの接点があるうちに、いつの間にか、自社への思いは弱まってしまいます。最終的にその人材を採用するには、その学生との関係が切れないように、大事に大事に、選考までつないでいかなくてはいけません。


パスの設計とは、あるイベントで接触した学生に、次にどのイベントで接触するのか、そのつながりをあらかじめ設計しておくことをいいます。例えば、次のイベントまでの期間が長すぎたりすると、簡単にパスは切れてしまいます。一般的には、あるイベント後、1ヵ月以上、何のイベントも発生させなければ、パスは切れてしまうと考えるべきです。

パスが切れてしまった学生は、いったん、縁が切れてしまったことになります。嫌われたり、嫌ったりしたのではないとしても、最初からもう一度やり直しということです。

その場合、それまでの採用広報がどんなに成果をあげていても、イベントが単体でどんなに満足度が高くても、採用広報本来の目的(人材を採用するための広報)としては、成果を逃していることになります。

チャネル(対象)

学生が自社を初めて認知したイベント(例えばDMやウェブサイト)から、最後の接点、ここではいったん <選考> への参加にしますが、そこまでの複数のイベントをパスでつないだ一連の流れを「チャネル」といいます。

特定層を採用するためのチャネルなど、最初に呼び込む層を考えることで、チャネルの特色をつくることができます。


以上のように、採用広報の戦略とは、イベント、パス、チャネルを設計することで成立します。どのような対象(すなわちチャネル)で、どのように学生と自社との接点(すなわちイベント)を配置し、どうやって選考までパスをつないで来てもらうかを考えることが、採用広報の設計になります。

では最後に、A社の話にもう一度戻り、これからどのように変えていくか、一緒に検討してみましょう。

すぐにできる強化の例

先にも述べた通り、多くの企業において、イベントについては一生懸命吟味してコストとワークロードを投下していても、パスの検討はおざなりであることが少なくありません。

一生懸命やったのに、成果につながっていない。まさに、それが、採用広報の落とし穴なのです。

A社の場合も、その一回の施策、つまり「点」の成功には思いを馳せていたものの、その「つながり」については戦略が脆弱で、結果的にそこから内定者を獲得できようができまいが、曖昧な設計になってしまっていたのです。約9割の内定者が採用広報の施策に参加していなかったのは、イベントが内定者に響かなかった可能性もありますが、採用担当者の仕事の質からいって、「イベントに参加していた内定候補者を、いかに選考までつなぐか」、つまり、パスの戦略がなかったことが大きな原因だと考えられます。

では、パスの戦略について、今年、今からでもすぐにできることを一緒に考えていきましょう。パスを強化するには、イベントをたくさん発生させることが最も近道です。しかしながらイベントを発生させると大概コストも発生するので、それは簡単ではないという企業も多いと思います。

そこで、コストをかけずに強化する方法について、思いつくアイディアをいくつか、具体的に示したいと思います。


  • ・イベント時に、必ず次回のイベント(次の接点はいつ、どのようなものか)についてしっかりと予告を行う
  • ・顔と名前を覚え(こちらも覚えてもらい)、一段深い関係構築を行う
  • ・直接電話をかけて、マニュアルトークではない個人的な話題も交わしつつ、次のイベントに誘う
  • ・一斉配信ではない、ひな型の文章ではない、個人を名指しした、イベントに誘うメールを打つ
  • ・イベントの参加実績をトレースし、「前回も参加してくれたよね」などと学生に直接、話しかける
  • ・望ましい学生には、社内で担当者を付けて個別にフォローする

こういったことを決まり事として、戦略的に、本腰を入れて、行うのです。

今ここに書いたことはそれほど特殊なことはないので、なんだ、そんなことかと思われる方も多いでしょう。それに近いことをやっている、という企業もあると思います。ここに思いつかなかった、さまざまな施策が他にも考えられると思います。ポイントは極めて単純、相手の視点に立つことです。

相手の目線になってアプローチを考えるのは、ビジネスも採用も同じですね。ビジネスが上手な企業は、結局、こういった施策も上手に行っています。DMが送られてきただけで、果たしてモノが売れるでしょうか? どうしたら売れるか、一生懸命考えなくてはいけません。

母数が多すぎてワークロードがひっ迫するなら、「自社にとって望ましい人のみパスを強化する」、つまり、ぜひ採りたいと思っている人にだけ強化をしてもよいと思います。フェアネスの観点から、気が進まない方がいるかもしれませんが、むしろそれを気にしてパスが切れてしまうことの方が問題です。

その場合のひとつの対策は、なぜ直接誘っているのか、理由をきちんと伝えることです。「君が○○だから、次回のイベントに合っていると思って誘っています」というなにがしかの根拠を示すだけでも、相当なフェアネスが担保されるでしょう。

今回は、時節がら、私が最も気になっている、設計のない採用広報の問題についてお話をしてきました。自社のイベント、パス、チャネルについて、ぜひ確認をしてみてください。内定者に簡単な調査をしてみることも、とても有効です。

ページトップへ