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2011/11/29

日本の新卒就職/採用改革はいかに?―「社会イノベーション」の専門家からの提言―

岡崎 仁美(おかざき・ひとみ)
1993年(株)リクルートに新卒入社。以来一貫して人材関連事業に携わる。
当初7年間は大阪にて人材採用・育成の営業に従事、中堅・中小企業を中心に延べ約2000社を担当。2000年に首都圏に異動し、転職情報誌『B-ing関東版』の編集企画マネージャー、同誌副編集長、転職サイト『リクナビNEXT』の編集長を経て、2007年4月に、『リクナビ』編集長に就任。以後、大学などでの講演も数多く行う。プライベートでは3児の母でもある。

イントロダクション


こんにちは。リクナビ編集長の岡崎仁美です。

いよいよ、新しいルールの下での活動となる、2013年卒採用が始まります。

それに伴い先月ごろから、3月の震災以降下火になっていた、マスコミによる新卒就職/採用に関する報道も再び増え、開始時期変更に対する学生・大学・企業の不安や、その対策について、レポートされています。

ちょうどソーシャルメディアが一層の普及の段階を迎えたことも相まって、「開始時期の後ろ倒しが、ソーシャルメディアを活用した特定の学生と個別企業の『つながり』を促進しているのではないか」といった論調もあります。

そもそもこの「就職/採用活動開始時期の繰り下げ」は、日本全体の視点で、「日本で学ぶ学生をもっと強く、競争力のある人材に育てるために」という大義が起点だったと認識しています。

ところが実際は、全体で見ても「時期の繰り下げ」という施策単独でその大義をなせるという確信が得づらいことと、個別で見ればこの「後ろ倒し」によって、個々の就職活動生や採用企業の活動難度が上がったと感じられている実態から、その実効性や継続性に対して懐疑的な見方が少なくないようです。

こうした新しいスキームが定着するためには、個々の就職活動生や採用企業の「就職/採用成功」が必要条件だと思います。

どうすれば、各個人・社の就職/採用を成功する=「個益」を守りながら、日本の新卒採用の仕組みを進化させ全体構造を変える=「公益」を生み出すことができるのでしょうか。

今回は、編書『社会イノベータへの招待 −変化をつくる人になる−』にて、その個益を守りながら公益を生み出す手法、技術、実践例を紹介しておられる慶應義塾大学 SFC研究所所長 金子郁容先生にお話を伺い、このテーマのブレイクスルーポイントなどに関していただいた示唆をご紹介します。



話者紹介

慶應義塾大学 SFC研究所 所長
大学院 政策・メディア研究科 教授  金子 郁容氏

1948年 東京都生まれ。慶應義塾大学工学部卒。スタンフォード大学Ph.D.(オペレーションズリサーチ)。ウィスコンシン大学経営工学科・コンピュータサイエンス学科併任准教授を務めるなど、アメリカ、ヨーロッパで12年間過ごし帰国。
エッセン大学(西ドイツ)客員教授、統計数理研究所客員教授などを歴任。一橋大学商学部教授を経て、1994年4月より現職。1999年4月から2002年9月まで慶應義塾幼稚舎長兼任。2009年10月よりSFC研究所所長。 専門は情報組織論、ネットワーク論、コミュニティ論。

2008年3月より総務省・厚生労働省共同設置「遠隔医療の推進方策に関する懇談会」座長、2009年11月より総務省「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース 地球的課題検討部会」部会長、2010年1月より内閣府「新しい公共」円卓会議座長、文部科学省「『熟議』に基づく教育政策形成の在り方に関する懇談会」座長、2010年10月より内閣府「新しい公共」推進会議座長。


情報技術で“試行錯誤”を蓄積し、叡智を生む

岡崎先生は「コミュニティによる問題解決(=コミュニティ・ソリューション)」に注目し、医療・健康・教育・スポーツ・まちづくりなど生活に密着した分野において、「満足度が高く社会コストの低い問題解決」を実現する可能性を、理論と実証の両面から研究してこられました。

金子私は、科学技術はつながりをつける力と、社会をさらなる発展に導く力を持っていると考えています。そして、技術革新の成果を社会イノベーションに結び付けるための具体的な方法として、「複合型コミュニティ」の形成を提示しています。

複合型コミュニティとは、「現実空間」のつながりと、情報技術によってつくり出された「情報空間」のつながりの双方のメリットを相乗効果が出るようにデザインした仕組みです。

岡崎就職/採用活動にもインターネットに代表される情報技術が導入され、まさに「現実空間」のつながりと、「情報空間」のつながりの双方が存在するようになりましたが、これをどのようにご覧になっていますか?

金子実は、「積極的な気持ち」と「困ったなという気持ち」、その両方を持っているのです。
 まず「積極的な気持ち」の方からお話ししますね。

就職/採用のプロセスを一種の「競争」と考えた時、A社とB社が、cさんを巡って競争をする。一方cさんの第1志望企業であるD社の採用枠をめぐって、cさんは他の応募者であるeさん、fさんと競争をする。就職希望者と採用希望者の間での、一種の競争行動の試行錯誤が起こるということですね。
 毎年新卒を採用する企業は、毎年、一定のポリシーに沿ってそうした行動を繰り返しますね。学生は基本的には、「新卒者としての就職」は一生に一度きりでしょうが、同時に多数の学生が「新卒者」としての就職活動を行っています。この同時に起こっている行為の積み重ねを通じた学習に、インターネットは大きな、革命的な飛躍をもたらし得ます。

ネット上では、ものすごく短期間にたくさんのやりとりができます。インターネット以前の時代であれば、100年の歴史の中で積み重ねられていたような事象が、今ではある数週間の間に、繰り返し展開されて、100年分の試行錯誤の蓄積が行われます。

不確実な結果に向けて行われるコミュニケーション行動についての経験を「実験」と捉えると、ネット上では短期間でたくさんの実験が行われるということになります。

学生にとってみれば、ネットのない時代には、一回きりの経験がいろいろな思惑の中で短期間に沢山の実験が行える。企業側でも毎年、多数の就職希望者と無数の実験が繰り返されるということになる。そのプロセスでそれなりの学習ができる。

特に、インターネットにおけるやりとりは、ログという形で履歴が残る点が、その学習効果を高めるのです。


重要なのは「内容」。コミュニケーションが先行する現状に危機感

岡崎今、就職/採用活動の在り方そのものの見直し議論が盛んです。われわれの社内でも、私たちは何ができるのか?の検討を重ねています。

今ネット上で交わされているコミュニケーションの1つ1つは、どうすれば「積み上がる」のか。どういうフィードバックがあれば、学生と企業の双方が学習することができるのか。全体を俯瞰して、どういう振り返りがなされれば、改善・改革の突破口が開けるのか。
 よりよい就職/採用の姿を描くためには、就職サイトを運営する立場の我々も、今まで以上に真剣に、こうしたテーマに取り組む必要がある、ということなのですね。

先生、もう一方の「困ったな」という気持ちについても教えていただけますか?

金子ネットを使ったコミュニケーションは、きちんと計画されれば、内容と手法の両方とも素晴らしいものになり得ます。

ところが現実の世界では、手法としては確かに、容易に低コストで、あるいは距離を超えたやりとりがなされるようになるなどの進化を遂げているものの、実際は、より充実したコミュニケーションとは反対の方向に進むことも少なくないのです。

一般的に言うと、ネット上でのやり取りは短期間で経験が蓄積されることになります。 しかし、現在の形での「就職戦線」においては、そのようなやりとりが学生側、企業側双方の思惑に拍車を掛けるという側面が強調され、双方の不安や不確実性が加速され、望ましくない傾向が増長される可能性も増えます。

就職の場合、現在のようなネットを通じた仕組みは、昔より確実によい面もありながら、双方の焦りや不安を増長させるという望ましくない面もあると思う。

しかし、そのようなネガティブな側面は、単にネットシステムによるものということではなく、日本社会の旧態依然とした構造的な問題に起因している部分が大きいように感じます。

新卒一括採用の仕組みがその典型です。

自分に合った職を求める者にとっても、自社を活性化させそうな人材を見つけたい企業にとっても、特定の時期に「競争」が一斉に始まり、終わるというのは、コミュニケーションを深めるということからして、決して望ましいことではない。

そうした、昔ながらの社会構造が変わらない中で、コミュニケーションだけが先行して進化してしまうことは、ネットのよさが弊害を加速させることになる可能性があり、それで「困ったな」と感じているのです。

岡崎確かに一括採用も含めて、これまでわが国が長い年月をかけて築いてきた日本特有の雇用システムが、もはや制度疲労を起こしてしまっている、という指摘は多いですよね。

金子社会的構造と言いましたが、冷静に考えると就職プロセスは完全に人工的なものであり、当事者たちが変えようと思えば変え得ることです。

しかし、当事者たちが互いに牽制をしたり、自分だけが「望ましい形」にするとき、他の「ヌケガケ」することで自分だけが不利になるという、いわゆる「囚人のジレンマ」ゲームの典型例になっている。
 皆が協力すれば全体がよくなるのに、率先して協力するプレーヤーが「損をする」ことになってしまう。

大学でいえば、今また「9月入学」が就職の国際化という文脈で話題になっていますね。 実はSFCはずいぶんと以前からやっています。

社会的にも、当事者である学生にとっても望ましいことのはずですが、それが全国的に広がっていない要因として出口、つまり、新卒一括採用の慣習が変わらない限り就職のタイミングが4月であり続け、学生も9月入学生を実施する少数の大学も負担が増え、効果が限定的になってしまい、それで広まらないという実態が挙げられています。

そこに、「国際化」という要素が入ってきました。

一部の企業では「会議はすべて英語、英語ができないと昇進させない」といったことも始まっており、積極的に留学生や外国人を採用することも始まりつつある。そうなると、これまでの慣習が崩れる可能性が出てきます。

これからは、就職戦線にもいろいろな動きがありそうです。就職支援のネットツールも大きな変革期を迎えるのかも知れません。

社会イノベーションは小さな試行錯誤の積み重ねから

金子しかし社会が変わるときというのは、意外と小さな活動が起点になっていることも多いのです。

特に、ネットを中心とした情報技術が、小さな試行錯誤のスピードや回数を上げ、その影響力を増幅させるところに大きく寄与するようになってきています。

就職/採用の構造に関しては、活動場面における「個人と企業、それぞれにとって本当に重要なこと」を明らかにし、そうした「内容」面でコミュニケーションをつなぐことが一つの突破口になるような気がします。

岡崎ネットの活用を、コミュニケーションのコストの低下などといった面での期待にとどまらせるのではなく、コミュニケーションの「内容」を磨く部分にまでいかに展開させられるか、ということですね。

金子リクナビが、例えば新卒一括採用をぶっ壊すようなサービスを提供するのは難しいでしょう。なぜなら、現実の需要がそこにある、ないし、大多数がそう感じているわけですから。ただ、例えばオルタナティブ(※)サイトのようなものをつくるなどは可能ですよね。何かちょっと風穴があくと、日本も変わる可能性があると思うのです。

※オルタナティブ(alternative):代わりとなる、代わりのという意味

私の期待としては、大きな影響力を持っているリクナビなどが、率先して、より内容的なコミュニケーションが可能になるような新しい試みを、従来型の仕組みと並行して走らせるといった「実験」を始めていただきたいと思っています。

個人と企業の双方にとって実りが多いのではないでしょうか。

学生にとっても企業にとっても大きな意味のある就職/採用プロセスだけに、個々の学生や企業は自分だけで慣習を破ることはしにくい。

一気に慣習を壊すのではなく、望ましいブレークスルーの発端となるかも知れないオルタナティブを意図的に提供することは、社会貢献であるとともに、業界リーダーの、一種の責務のようなものであるかもしれません。リクルートさんには大いに期待しています。


先生はこの日、「社会を変えるために風穴をあける」事例として、今年6月に成立した新寄附税制の「市民公益税制」に関する改正についても教えてくださいました。

具体的には、「仮認定」という概念を導入することで、NPO法人などに寄附をする人に対する税金面での優遇要件を緩和するという方法です。

これも「日本におけるNPO法人の育成」という大きなテーマの中では、ほんの小さなことかも知れないが、こういう小さな「風穴」から社会は変わっていくのだということを、強調しておられました。

低成長だ、成熟社会だといわれているわが国ですが、世界の他国と比べれば、まだまだ快適度の高い状況ともいえ、抜本的改革の圧力が高まりづらい側面があります。

政治や経済、社会のシステムに関する「何かおかしい」は随所に存在しているのに、それが社会全体の構造と結び付いていると知ると、改革の困難さが先に立ち、諦めてしまいがちな傾向もあるかもしれません。

しかし今回先生に教えていただいたように、そうした膠着状態に風穴をあける手法や技術、実践例が数多く登場してきているという現実を勇気の源とし、よりよい就職/採用構造づくりにまい進していきたいと、あらためて決意した次第です。


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