2011/11/01

変わる2013年卒採用、中小企業こそ好機に―中小企業経営専門家による採用再構築への示唆―

岡崎 仁美(おかざき・ひとみ)
1993年(株)リクルートに新卒入社。以来一貫して人材関連事業に携わる。
当初7年間は大阪にて人材採用・育成の営業に従事、中堅・中小企業を中心に延べ約2000社を担当。2000年に首都圏に異動し、転職情報誌『B-ing関東版』の編集企画マネージャー、同誌副編集長、転職サイト『リクナビNEXT』の編集長を経て、2007年4月に、『リクナビ』編集長に就任。以後、大学などでの講演も数多く行う。プライベートでは3児の母でもある。

イントロダクション


こんにちは。リクナビ編集長の岡崎仁美です。

このコラムではこれまで、「入社後活躍人材の確保」を旗印に、企業事例も含めたインタビュー記事を、いくつかお届けしてまいりました。

振り返ってみると、企業経営者・企業の採用責任者・マーケティングの専門家・採用関連事業従事者……、さまざまな立場の人が共通して訴えていたのは、「今の若者の気質を捉えて、採用・育成を変革する」必要性ではなかったかと思います。

そこで今回は、大学教育の現場で、まさに今の学生の「気質」を日々肌で感じている方へのインタビューを試みました。

お話しくださったのは、電気通信大学 産学官連携センター 特任教授の竹内利明氏。

竹内特任教授は、産業界出身の特任講師やウェブサイト討論など全国に先駆けた教育手法を次々と導入するなど、電気通信大学のキャリア教育において中心的な役割を担っていらっしゃいます。

また、自らの約15年にわたる中小企業経営経験も生かし、中小企業経営論・中小企業連携論(産学官連携、企業連携)の専門分野でもご活躍中です。

話者紹介
国立大学法人 電気通信大学  産学官連携センター 特任教授 竹内 利明氏

1952年東京都生まれ。76年青山学院大学理工学部経営工学科卒業。
学生時代より従事していた実家の自動車部品メーカーに大学卒業後15年間勤務。営業、人材の採用をはじめ、製造課長、部長、取締役営業技術部長などを務める。在籍期間中には福島県内に工場を新設し、企業規模を約70人から350人にまで拡大させる。

91年コンサルタント会社を創業。2000年より電気通信大学客員助教授、03年より客員教授、05年4月産学官連携センター特任教授に就任、現在に至る。05年から10年まで法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBA)客員教授を兼任。

専門は、中小企業経営論(産学官連携、企業連携)、ベンチャー論(創業支援、起業家教育)。


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イマドキ学生は「打てば響く」潜在力を持つ!

岡崎

電気通信大学のキャリア教育は、今年度でもう7年目だそうですね。

竹内

はい。2005年度より、「理工系専門大学における1年生から始める産学官連携によるキャリア教育」に取り組み、今では1年次の「キャリア教育演習」は、電気通信大学で学ぶ新入生の全員が履修する必修科目となっています。

岡崎

「キャリア教育演習」の授業は、1年生前期の月曜1限に、「電気通信大学概論」との隔週交代の形で行われているのですね。学生の皆さんは、電通大に入学するとまずはキャリア教育の授業を受ける、という認識でしょうか。

この6年半、多くの学生と触れる中で、今の学生の特徴など、お気付きの点はありますか?

竹内

もちろん一人一人の個性がありますから一概には言えないですけれど、少なくとも本学の学生は総じて真面目ということはいえますね。

今の大学生のほとんどは1990年代生まれです。90年代といえば、97年に大手銀行や証券会社の破綻がありました。その後の経済低迷は言うまでもありませんが、彼らはそうした「失われた」と大人たちが表現する時代の中で育ってきました。親が苦労している姿を間近に見てきた人も多い。

岡崎 この世代の時代観については、われわれの調査データにも出ております。弊社の進学カンパニーが隔年で実施している「高校生のいま 〜価値意識調査〜」(※)というものです。

この、いわゆる「2013卒」の年代に当たる2009年版の調査結果を見ると、「今の社会はけっこう良い社会だ」に「あてはまらない」とした当時の高校3年生は、53.0%と過半数でした。

「社会人になるころの社会は明るいと思う」に対しても「明るくない」とした人が60.6%で、現状や将来に対して楽観視していない様子がうかがえます。

■今の社会は結構よい社会だ

■社会人になる頃の社会は明るいと思う


竹内

かといって、諦めているかというとそうではない。今の学生は、「自分の力になる」と確信したことは、本当に一生懸命やりますよ。

「キャリアデザイン」の授業では、学生に、大学生活の目標設定と、それに至るプロセス設計をしてもらうのですが、彼らはそうした課題に真剣に取り組んでいますし、具体的なプロセスにもきちんと落とし込みますね。

岡崎 そうなんですね。実は同じ調査でも、そうした特徴を示すような結果も出ています。

「今こつこつ頑張れば将来成功する確率が高くなる」が75.5%、「将来は自分のがんばり次第で決まると思う」が80.5%、「今しかやれないことに全力をつくすべきだ」が90.3%と、極めて高い数字となっています。

■今こつこつ頑張れば将来成功する確率が高くなる

■将来は自分のがんばり次第で決まると思う

■今しかやれないことに全力をつくすべきだ


竹内 彼らの世代は、例えばレポートの課題などについて「文章が下手」「そもそも書けない」などと言われがちです。でも実際の大学教育の現場で見ていると、極めていいレポートが出てくることは少なくないですよ。

いい授業でいい刺激を受ければ、いいレポートは書けるのです。こちらの授業がよくないと、学生の心に訴えるものも乏しくなり、その結果いいレポートが書けなくなる。私はそのように捉えて、自分達の授業を反省するようにしています。

中小企業の採用成功には、トップのコミットが不可欠

岡崎

ところで、先生ご自身も、元・中小企業経営者でいらっしゃいますよね。当時、採用や育成にどのように取り組まれたのですか。

竹内

私は大田区の自動車部品メーカーの2代目でして、高校生のころからプレスの現場で父の会社を手伝いました。

大学では経営工学を専攻したのですが、工場での現場経験があるので、授業で教わる理論と、自分が体験している実際とを結び付けることができ、とても有意義な大学時代を過ごせたと思っています。

岡崎

当初70人くらいだった会社を、15年で350人くらいにされたのですよね。

竹内

私が製造の課長か部長をしていたころに、1年に100人以上と面接したこともありました。全員私が面接して配属し、毎朝現場を歩いて、配属した新人1人ひとりとコミュニケーションを重ねたのです。

そのうち、どういう人がわが社で活躍し、どういう人がわが社では続かないかということが、直感で大体分かるようになりました。

岡崎

そして今は、そのころの経験も生かして、中小企業経営の専門家として中小企業をご覧になられているわけですが、今の時代の中小企業にとって、人材採用はどう位置付けられるべきだとお考えですか。

竹内

私が経営に携わっていたころよりも一層、「ヒト」の重要度が増していることは確かです。

社会や経済が、知識基盤型に転換してきている中で、やや極端ですが、企業にとっての資産はもはや「ヒト」しかないとさえいえるかもしれません。

岡崎

その「ヒト」の確保に関して、中小企業が留意すべきことは何でしょうか。

竹内

唯一挙げるならば、トップのコミットメントでしょう。トップ、つまり経営者は、その会社が伸びるか衰退するかも含めて、全責任を担っているわけですね。

そうした中で、人材を集めて育てることは、まさに経営者の仕事と言えます。いい人が集まるのも集まらないのも、経営者次第だと思います。

岡崎

採用活動の実務は、別の社員などが担うケースが多いでしょうが、トップにはその大きな方向性や戦略立案を行ったり、責任を持って、戦略を実現するための環境を整えたりすることが求められるということでしょうか。

竹内

どういう人なら自社で採用が可能なのか。どういう人なら自社で力を伸ばすことができるのか。そうした青写真は、経営者自らが描くべきでしょうね。

事業も採用も戦略は重要。多くの中小企業は、大手企業のマネをするのではなく、自社ならではの価値を、大手にはできない領域で発揮していることと思います。そうした事業上の戦略の立て方を、採用にも活用すればよいのです。

採用も「中小だからこそ勝てる」戦略を

岡崎

中小企業が採用を成功させるには、大手が採らないような人を狙って採る必要があるということでしょうか。

竹内

まさにそうです。もちろん大手も中小も自社にとって望ましい人材、つまり自社で活躍しそうな人材を採用したいのは共通です。しかしその「自社で活躍する」という具体的な要件は、本当に大手と同じでいいのか。

中小企業がさまざまな制約条件の中でいい人材を採用しようと思うなら、そこを問い直す必要があるのではないかと思います。

 

その際のポイントは、採用を採用単独で捉えるのではなく、育成とセットで考えることです。もちろん、大手企業が用意しているような充実した研修システムや教育の枠組みは、中小にはマネできないことも多い。また大手企業で働くこと自体が、さまざまな能力を磨くのも事実でしょう。

しかし、中小には中小ならではの育つ風土や環境があるはずです。大手企業は突出した能力があってもコミュニケーション能力が低いなどバランスが悪いと採用を控える傾向があるが、中小はどこかに課題を抱えていても、経営者自らが手をかけて熱心に指導すれば、将来の幹部候補になると判断できれば積極的に採用すべきです。

岡崎

中小企業への就職を希望する学生たちは、トップとの距離の近さを、その魅力の一つに挙げますね。

竹内

中小企業においては、経営者は教育者であらねばと思います。

もちろんアカデミックな意味での教育ではありません。自分の背中で見せてあるべき姿を示したり、現場での日々のコミュニケーションを通じて一人一人の意欲を引き出し、目標に向かって導いていったりするということです。

岡崎

トップが全体を見渡せるサイズであることを生かし、OJTで自らしっかり育成するということですね。

竹内

基本はそうです。ただ教育はOJTだけではダメですね。現場の実体験を積むことは前提ですが、それを振り返って、自分がやってきたことを整理したり、理論づけたりすることで体系化し、再現性を高めることができる。つまり、実地体験と理論武装の両輪が必要なのです。

岡崎

企業規模にかかわらず、最近は現場が非常に忙しいので、Off−JTをやりたくても時間がとれないという話も聞きます。

竹内

新人育成を現場の管理者に任せてしまうと、そうなりがちですよね。だからこそトップが自らOff−JTの機会をつくるのです。

例えば社長も含めた社員で、その会社の事業領域にかかわる新技術の本を読むのです。みんなで同じ本を読み、時にはビール片手にその本によって触発されたことなどを語り合うなんて、青くさいかもしれませんが、いいじゃないですか。本が苦手な社員には、テレビ番組をテーマにしてもいいと思うんですよ。

岡崎

確かに、特別な設備や技術は必要なく、トップがその機会をつくると決断すればできることですね。

竹内

日本は、中小企業の比率が非常に高い国です。あらゆる方面で、この国の技術やサービスを支えています。こうした企業群が、いかにいい人材を確保し育てていくか。これは国全体の将来を左右する大きなテーマだと私は思います。

そういう意味でも、中小企業経営者の皆さんにはぜひ、人材採用や育成へのコミットメントを一層高め、自社が“勝てる”やり方を、自ら編み出してほしいと切に願っています。

今回の取材を通じてあらためて感じたのは、事業と同様、採用も「差別化」がカギであるということです。竹内先生は盛んに「中小企業のユニークさを生かして」ということをおっしゃっていました。

人にはそれぞれ個性があるのと同様、企業にも各社ならではの特徴が多々あります。そうした「違い」をあえて優位ととらえるとしたら、何ができるのか。
私たちは、「変わる」2013年卒採用を変革の好機としたいと考える皆さまを、ぜひお手伝いしたいと思います。
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